
マンションでは隣人の話し声や子どもの足音、ペットの鳴き声などがトラブルの原因となることがあります。また屋外の喧騒や、自動車の走行音といった騒音が問題となることも。
この記事では、音に煩わされない防音マンションの選び方を紹介します。間取りや壁の素材など、建物構造によるメリットやデメリットについても解説します。また壁・床・窓など、内見でチェックしたいポイントもピックアップします。
※この記事では、防音にすぐれたマンションの選び方についてお話します。防音に関するリフォームその他の防音対策については、こちらに特集記事がありますので、ぜひ合わせてご覧ください。
2018年6月4日初出→2023年5月11日更新
目次
「鉄筋コンクリートは防音性能が高い」とは限らない
一般的に、防音性能の高さは鉄筋コンクリート(RC造)の住宅が一番高く、続いて鉄骨(S造)、木造の順といわれています。
しかし、これは必ずしも正解ではありません。床や壁の材質や厚みによって音漏れの具合は変わってきます。
鉄筋コンクリートのマンションは、床の構造体にはコンクリート。部屋を区切る戸境壁には、コンクリートや乾式遮音壁(石膏ボードで軽鉄下地グラスウールなどの断熱材をサンドイッチしている壁)を採用しています。
乾式遮音壁は、従来は遮音性に劣るといわれていましたが、現代の乾式遮音壁は厚さ200mmのコンクリートと同等の遮音性が認められています。
一方、鉄骨造りの住居では、床はコンクリート、壁はALCパネル(軽量気泡コンクリートの板)を採用しています。
ALCパネルは、薄くても遮音性が高いのが特徴です。高層ビルの素材としても用いられています。
乾式遮音壁とALCパネルは、工事の際に高い技術が必要であり、施工業者のレベルによって遮音性には大きなバラつきがあります。そのため、床や壁に「どの素材を採用しているか」だけでは、正確な遮音性能を判断できないのが現状です。
したがって内見の際に、話し声や足音など、実際の響き方をチェックすることが大切です。入居後のトラブルを防ぐためにも、各部屋によって隣戸の生活音が漏れ聞こえてくる場所がないか注意しましょう。
POINT
- 「RC造だから静か」とはいえない
- 「乾式遮音壁やALCパネルだから、遮音性が低い」とはいえない
- 内見で実際の聞こえをチェックすることが大切
【壁構造】話し声、テレビの音漏れ
人の話し声やTV・オーディオ類といった空気伝搬音が漏れてくる場合、原因のほとんどは壁にあります。
成人が発する声のボリュームは、おおよそ約55dB。この音量を防ぐためには、コンクリートの戸境壁の場合、150~180mmの厚みが必要です。
乾式遮音壁(壁を叩いたときに中に空洞を感じる壁)の場合は、遮音等級D-55以上(特級クラス)の壁が望ましいでしょう。
ただし壁自体の遮音性が高くても、柱・床・天井などの取り合いに隙間があれば、そこから音漏れする場合があります。
物件によっては、地震対策のために壁と柱の間にわざとスリットを設けていることも。こうしたスリットも音漏れの原因になります。
戸境壁にコンセントやスイッチが付いている物件も注意が必要です。コンセントを埋め込んだ分、音が通りやすくなっている可能性があります。
また、戸境壁の内装仕上げも、音漏れに影響します。
コンクリートの上に石膏ボードを張り、表面をクロスで仕上げるGL工法は、コンクリートと石膏ボードのわずかな隙間で音が共鳴して増幅する太鼓現象が起きることがあります。
戸境壁がコンクリートの場合、躯体に直接クロスや塗装で仕上げる方法(直貼り)のほうが、かえって音が響きにくいこともあります。
乾式遮音壁は、内部に一定の中空層がありません。部分的にあったとしても空気の抜けがあるため、太鼓現象の心配はありません。
POINT
- 隣戸の話し声を遮音するには、戸境壁のスラブ厚150~180mm以上が必要
- 乾式遮音壁の場合、遮音等級D-55以上が必要
- 戸境壁にスリットやコンセントがあると、音漏れにつながる可能性も
【床構造】足音、モノを落とした音
ナイフやフォークなどを落としたときの軽量衝撃音(「カツン」という音)。
こうした音をどれだけ防げるかを示す等級をLLといいます。
人が歩くときやエクササイズをしたときの重量衝撃音(「ドスン」という音)。
こうした音をどれだけ防げるかを示す等級をLHといいます。
これらは上階から下階に響きやすい音。
こういった音は、床の構造次第で軽減できる可能性があります。
軽量衝撃音は、フローリングやカーペットなどの床材によって軽減できます。
遮音性に優れているのはカーペットや畳ですが、デザイン的にはフローリングが人気です。近年のマンションは、多くが遮音フローリング(遮音等級LL-45~-40)を採用しています。
重量衝撃音は、コンクリートスラブの厚みによって遮音性が大きく左右します。
大人が静かに歩く足音は、スラブ厚180mm程度でもほとんど気になりませんが、子どもが走り回って遊ぶ足音に対応するには、200mm以上は必要です。
あるいは床の躯体と仕上げの床の間に100mm程度の空気層をつくったり、両者の間にグラスウールなどの緩衝材を詰めたり(浮床)といった二重床工法も、重量衝撃音の軽減に効果的です。
POINT
- 床の仕上げ材は「カーペット・畳・遮音フローリング」が望ましい
- 足音を遮音するには、床のスラブ厚200mm以上が目安
- もしくは二重床工法(浮床工法)も効果的
【窓サッシ】屋外の騒音
窓から入ってくる車や電車、通行人などの音は、サッシの隙間から入ってくることがあります。とくに道路や線路が近くにあるマンションは、防音性能にすぐれた窓サッシが必須です。
駅近または街中の場合は遮音等級T-1以上、幹線道路や線路沿いはT-2以上のグレードの窓サッシがおすすめ。
ほかにも、窓ガラス自体が防音仕様の場合もあります。
レギュラータイプの窓ガラスは3mm厚の単板ですが、防音仕様の場合は5mm厚・8mm厚、あるいは二枚のガラスの間に緩衝材を挟んだタイプなどがあります。
ただし、防音ガラスもサッシの気密性が高くなければ、ほとんど意味がありません。
また、単板ガラスより複層ガラスの方が遮音性に優れています。複層ガラスの中でも「2枚でガラスの厚みの違うもの」「中空層(ガラスの間の空間)が真空になっているもの」は、より遮音性能が高くなります。
POINT
- 駅近・街中のマンションは、遮音等級T-1以上の窓サッシが望ましい
- 道路・線路沿いのマンションは、遮音等級T-2以上の窓サッシが望ましい
- 複層ガラスの中でも、2枚でガラスの厚みが違うもの・中空層が真空のガラスは特に遮音性能が高い
【立地・周辺環境】車や電車の走行音
大型車両が通る幹線道路や線路沿いのマンションは、いくら壁を厚くしたり、防音サッシを設置したりしても無音という訳にはいきません。騒音が気になるようなら、幹線道路や線路が目の前にあるマンションは避けた方が賢明でしょう。
車や電車の音は気にならなくても、通行人の声や、近隣のコンビニ・スーパーの音が多い環境がストレスになる場合もあります。
自分はどんな音を不快に感じるかをよく考え、住まい探しを進めましょう。
一方で、繁華街に近い物件は外の喧騒をシャットアウトする必要性があることから、防音対策がしっかりされているケースも多く、室内は静かだという場合もあります。
やはり内見の際に、実際の音の聞こえ方を確認してみることが大切です。
POINT
- 幹線道路や線路沿いのマンションは、厚い壁や遮音サッシでも完全な防音は難しい
- 実際の音の聞こえ方を、内見で確かめることが大切
【間取り】浴室やキッチンの水音
キッチンやバスルームで水をつかうと、給排水管を流れる水音が聞こえることがあります。
水音が頻繁に気になる場合は、各住戸の間取りに注意しましょう。寝室と水回りが隣接している間取りの場合、「キッチンやバスルームで水を使う音で目が覚めてしまう」といった心配があります。
具体的には、居室と水回りエリアの間に収納スペースを挟む間取りが理想的。洋服や布団など、中に収納しているモノが音を吸収してくれることで、その奥に位置する居室までは音が届きません。
ほかにも、水回り同士が隣り合うような間取りも良いでしょう。トイレやバスルームは使うとき以外は立ち入ることがないため、音の緩衝地帯になります。
加えて、間取り図にある「PS(パイプスペース)」には注意が必要です。PSは配管の本管となる空間であり、水の流れる音がするため居室はPSに接しない方が無難です。
POINT
- 居室と水回りの間に収納を挟む間取りは、荷物が音を吸収してくれてGood
- 水回り同士が隣り合う間取りも、居室まで音が届きにくくGood
【階数・住戸配置】目的によって選ぶべき場所は異なる
音の出る空間と静かな空間が遠いほど、騒音リスクは減少します。
上階の足音が気になる場合は、上に住戸がない最上階。
人の声やTVの音などを避けたい場合は、片側に住戸がない角部屋がおすすめです。
子どもの足音など、下階の住人との騒音トラブルを避けたい場合は、1階が安心。
楽器の音などで迷惑を掛けてしまわないか心配という場合は、角部屋を選び、住戸が接していない側で演奏することをおすすめします。
POINT
- 他の住人の足音が聞こえないのは「最上階」
- 話し声やTV・楽器の音が気になりにくいのは「角部屋」
- 自分や家族(子供)の足音がトラブルになるのを避けたいなら「一番下の階」
【管理規約】騒音トラブルを避ける工夫の有無
住み心地のよいマンションを決める際には、管理規約を事前に確認しましょう。
ペット禁止や楽器演奏不可といった内容が管理規約に含まれている場合、そのマンションの静かさを推し量る材料となります。
床材に遮音等級LL-45の遮音フローリングを使うことが決まっていれば、マンションの音トラブルへの厳しさを察することができます。
楽器を演奏したい場合は、楽器に制限がないか、演奏時間帯の決まりはないか、といった点も確認しましょう。
ただ、この遮音フローリングの規定には抜け穴があります。
フローリングを使う場合はLL45以上に限定されますが、フロアタイル等を使う場合はこの規定が適用されません。
全室フロアタイル仕上げという物件も決して珍しくはないため、注意が必要です。
ほかにも「過去に騒音トラブルはあったか?」「それはどんな内容だったのか?」も確認しておきたいところ。
住民のモラルを知るため、駐車場・駐輪場・ゴミ置場などの共用部の使用状況も内見で見ておきましょう。マナーが良くない物件は、音に関するルールも守られていない可能性があります。
POINT
- 静かな環境を望むなら「ペット・楽器禁止」「遮音床材の使用」と規約で決まっているマンションがおすすめ
- 住民の生活マナーも内見でチェック
【住民層】音に対する許容度
マンション内には、子育て中のご家庭や単身世帯、セカンドライフ世代のご夫婦など、さまざまな価値観の人たちが生活しています。ときには生活スタイルの違いから、隣の部屋や上下階とのトラブルが起きることもあります。
住民同士がお互いに気兼ねせず暮らしていくためには、事前にマンションに住む人々にどのような層が多いのかを確認しましょう。より静かな環境を望む場合、単身世帯やDINKS、セカンドライフ世代が多いマンションが良いでしょう。
また赤ちゃんがいる家庭には、同じ状況にいる家庭の多いマンション、ペットと暮らしている家庭には、ペットに寛容な雰囲気のマンションがおすすめ。自分のライフスタイルに合わせた選択が、トラブルを回避するコツです。
POINT
- 住民層のライフスタイルが自分と近いマンションはトラブルになりにくい
防音リフォームを検討する場合は……
もしマンションに住んだときの騒音が気になるなら、あらかじめ防音リフォームを施工するのも一つの方法です。
防音リフォームには、窓を二重サッシにする方法や遮音吸音性能に優れた床材にする方法などがあります。
隣の部屋との仕切りとなっている壁に遮音シートを張ったり、通気口からの音漏れを防ぐために防音タイプのものに変更したりする防音リフォームもおすすめ。
マンションの防音リフォームについては、こちらの記事で詳しく解説しています。リフォームをご検討の方は、ぜひこちらも併せてご覧ください。
おわりに
騒音と一口にいっても、壁から漏れ聞こえてくる人の会話やTV音声、上階から響いてくる足音や窓の外の喧騒と、その種類はさまざま。
快適な住環境のためには、壁や床、窓など、一つひとつ内見や不動産会社を通じてチェックしましょう。
中古マンションを探す際は、実際に住みはじめたあと後悔しないためにも、壁や床といった構造上の懸念点や間取り、管理規約などを確認することが重要です。
ひかリノベでは東京や横浜をはじめとする首都圏の中古マンションを多数ご紹介。今回ご紹介したようなマンションの防音についても知識のあるスタッフがおります。どうぞお気軽にご相談ください。
現在、ひかリノベのサービス概要をまとめたパンフレットと施工事例集のPDFデータを無料で配布中です。下記バナーより、どうぞお気軽にご覧ください。