自宅マンションに防音室を作りたい、というご要望が増えてきました。
マンションは隣家と壁や床、天井を共有しているため、楽器やスピーカーからの音漏れには特に気を付けたいですよね。
この記事では、マンションに防音室を設置するにあたって、設計段階で注意すべきポイントをご紹介。
防音室を作る際は防音室を使う人の満足だけでなく、家族や隣近所に住む方の生活の質を下げない工夫をするのも重要です。
ポイントを押さえた設計で、防音室リフォームを成功させましょう。
目次
後悔しない防音室をつくるための設計の注意点
防音室は使用目的や周囲の環境、既存の部屋の状態など、個々に異なる条件のもとで一から設計しなければなりません。
ここではまず防音室一般に関する設計・施工のポイントや注意点を紹介していきます。
マンションの管理規約を確認
マンションで防音室を作る場合は、まずマンションの管理規約を確認しましょう。
賃貸ではなく購入したマンションであっても、リノベーションやリフォームには管理組合の許可が必要なことも多いためです。
マンションは、所有者が自由に変更できる部屋の内側「専有部分」と、外壁やバルコニーなどの「共有部分」に分かれます。
共有部分はマンションに住んでいるすべての人が共有する部分のため、原則として管理組合総会の決議なしには変更できません。
マンションで窓のある部屋を防音室とする場合、窓まわりの遮音性を高める工事が必要です。
窓や窓サッシは、じつは共有部分。リフォームには(工事内容にもよりますが)管理組合の許可が必須です。
室内の音響にも注目
防音室を設計する際は、音を室外に出さない遮音だけでなく、室内の音の響きも考慮したいものです。
室内で音が響きすぎると、元の音が分からなくなり楽器を演奏しにくくなってしまったり、長時間いると生理的に苦痛を感じてしまうことも。
防音工事では、音を外の漏らさない「遮音」と、室内で音の響きをコントロールする「吸音」の両面からアプローチする必要があります。
防音室を作る場合は、壁や床を二重にして「音を外に漏らさない」工事のほか、室内に吸音材などを使用して「音の響きをコントロールする」工夫も重要です。
楽器にはそれぞれ心地よいとされる残響時間というものがあります。残響時間は吸音素材の持つ吸音率で調整するのですが、このとき推奨される吸音率は、基本的に音の残響時間が長い(響きが多い)ライブから、音の残響時間が短い(響きが少ない)デッドまでの数値で表されます。
下表は、使用する楽器や目的ごとの推奨吸音率の一覧です。
推奨吸音率 | 使用目的 |
ライブ | 弦楽器 |
0.15 | 声楽 |
0.19 | ピアノ |
0.24 | フルート・クラリネット |
0.30 | トランペット・トロンボーン |
0.40 | オーディオルーム・シアタールーム |
デッド | ドラム |
床の防振設計防音室で使う楽器によって推奨吸音率が変わってくるため、どんな楽器を使用する予定なのか、またどんな目的で使用したいかで吸音率を変える必要があります。
床の振動にも配慮を
また防音室を設計するときは、床の防振設計にも注意が必要です。
音には空気の振動で音が伝わる音(空気伝播音)と、壁や床が振動することで耳に届く音(固体伝播音)の二種類があります。
空気伝播音を遮る工事だけでは不十分で、床・天井・壁の振動を防ぐ防振工事も同時におこなうことが重要です。
下表は音の種類ごとに必要な防振構造の詳細です。
防振構造の種類 | 特徴 |
固定遮音構造 | 空気が振動することによる空気伝播音の遮音に効果的。 外壁や間仕切りの壁に音を遮断する吸音材などを取り付ける。 |
浮遮音構造 | 床や壁が振動することで伝わる固体伝播音を遮断する。固定遮音構造の部屋の内側にもう一つの浮いた箱を設置するイメージで、振動が外側の箱に伝わらないような施工をする。 |
ドラムやベースが出す重低音は、床などの低い部分を振動させて伝わるため、床を浮遮音構造にするのが効果的です。
また様々な音が出るオーディオルームやシアタールームの防音工事でも、浮遮音構造にすることをおすすめします。
開口部の隙間に注意
防音室を作る場合は、窓や出入り口ドアなどの開口部の隙間に気を付けましょう。
せっかく壁や床に防音工事をしても、窓やドアに隙間があるとそこから音が漏れてしまうからです。
開口部の隙間にも気を付けて、隙間を作らない仕様になっているか、しっかり確認するようにしましょう。
窓は専用の「防音ガラス」に交換するか、既存窓の内側にもう一つ窓を設置して(内窓)隙間からの音をシャットアウトします。
窓を閉めた状態で、窓枠と壁の取り合いや、窓枠と窓ガラスの間に隙間を作らないような工夫が必要です。
ドアには閉めた時の隙間を極力作らない気密性の高い「防音ドア」が有効です。
その上でさらに「吸音カーテン」などを設置すると、音の漏れを防げるでしょう。
また忘れがちなのが、エアコンの給排気口や換気扇のダクト。
ここにはサイレンサー付きのグリルや深型のフードなどを使用するのが効果的です。
快適な照明を考える
楽器を演奏する音楽室として、防音室を使用するときは照明にも気を配りましょう。
楽譜や鍵盤などを注視する機会が多く、照明を見やすい明るさにする必要があるからです。
照明が明るすぎると楽譜に反射した光が目を刺激してしまいます。
また照明の位置が悪いと影ができたり、明暗の差が大きくなったりして目の疲れを引き起こすことも。
防音室は音漏れや反響だけでなく、室内の照明にも配慮して作るのが失敗しないコツです。
防音の費用はいくら?
マンションに防音室を設置する際に気になるのは「費用はいくらかかるの?」という点ですね。
下表はRCマンションに防音室を設置する時の費用の目安です。
開口部を除いた複合遮音性能D-65~70で設定しています。
マンションで防音室を作る場合は、最小で3畳(約5㎡)、音楽教室などは広めの8畳(約13.2㎡)サイズが一般的。
3畳だと300万円弱~、8畳だと400万円強~施工できます。
既存面積(畳) | 既存面積(㎡) | 価格(円) |
3 | 5.0 | 280万 |
4 | 6.6 | 330万 |
5 | 8.3 | 360万 |
6 | 9.9 | 390万 |
7 | 11.6 | 420万 |
8 | 13.2 | 440万 |
※専有区画外/躯体スラブを合わせた複合遮音性能D-65~70(開口部を除く)
※建具・サッシのサイズおよび仕様により金額の変動があります。
※電子ドラムを想定(生ドラムは使用不可)
防音室のリフォーム事例
それでは実際に防音室をリフォームした事例を参考に、設計のポイントや注意点を紹介します。
マンションの和室をピアノ室へ
こちらは元々集合マンションの和室だった一部屋を、防音室にリフォームした事例です。
将来はピアノ教室を運営する予定で、左右上下に隣家がある中間部屋ということもあり、浮遮音構造で部屋全体の遮音性能を高めた仕上がりに。
和室の内寸の比率では、低い周波数レベルで音響障害が発生する可能性があったため、縦横の寸法バランスを変更して設計しています。
窓やドアも防音仕様のものに変更し、さらに遮音性能をアップ。
近隣にお住いの方からも「ピアノ練習の音が全く気にならない」との高評価をいただいています。
戸建て住宅の地下室をコーディングスタジオに
こちらの事例は戸建て住宅の地下を本格的なレコーディングスタジオとした事例です。
主に使用する楽器がドラムということで、輪郭のはっきりしたカラッとした音を出せるよう、室内の吸音率をデッド(残響時間短め)で仕上げています。
壁の四隅と天井部分に出た梁(はり)は、躯体形状の制限によりやむを得ず発生したものですが、音の反射経路を複雑にするという音響効果も期待できます。
また部屋をモダンな印象にする効果もあり、まさに一石三鳥な防音設計です。
地下空間全体がモノトーンでまとめられ、シャープでカッコいいデザインはクライアント様の生活スタイルなどにも良くマッチしています。
マンションの一室を電子ドラムと電子ピアノの演奏室に
マンションの一室を、電子ドラムと電子ピアノの演奏を想定した防音室とした事例です。
マンションの場合、人が歩く足音も騒音トラブルになりかねません。浮遮音構造で、床や壁の振動を外に漏らさない設計に。
防音ドアは鋼製で、一枚扉でも充分な防音性を備えています。
この防音ドアには窓を設け、居室空間との繋がりを残しました。防音室は中で危険があった場合に声を上げても外に聞こえづらいため、安全性の観点から、どこかに窓を設けることをおすすめしています。
まとめ
マンションの防音室リフォームでは、建物の設計や建築のノウハウだけでなく、音響や楽器が出す音の伝わり方、騒音についての専門的な知識が不可欠です。また防音室リフォームでは、工事後に期待した防音効果が得られないという場合もあるため、なるべく防音保証が付いている施工業者に依頼するのがおすすめ。
この度、ひかリノベは防音工事のスペシャリストである昭和音響さんと業務提携いたしました。
マンションのフルスケルトンリフォームを得意とするひかリノベに、防音工事を専門とする昭和音響さんが加わったことで、マンションリノベーションの可能性がさらに広がります。
在宅時間が長くなり自宅で楽器の演奏や映画鑑賞をすることが増えたという方は、マンションの防音室リフォームを検討してみては?
またこれからマンションを購入したいという方は、防音工事もできるひかリノベにぜひご相談ください!
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