マンションの大規模修繕、いつ何の工事をする?費用のめやすは?

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堅牢なコンクリート造のマンションも、10年後、20年後と長く安心して住み続けるためには、定期的なメンテナンスが欠かせません。
具体的には築12~15年ごとに「大規模修繕」――外壁塗装や屋上・バルコニーの防水処理といった工事を実施します。

新築を購入された方は、実際に体験するまでしばらく期間がありますが、中古の場合は数年後に修繕が始まる可能性もあり得ます。
しかし、具体的な工事内容や必要な費用、注意点などを学ぶ機会はほとんどない……という方が大多数ではないでしょうか。

今回は、マンション大規模修繕とは何か、いつ・何をおこない、費用はいくらかかるのかを解説します。

2019年1月10日初出→2020年10月7日更新

建物の維持にメンテナンスは不可欠

RC造・SRC造といったマンションに代表されるコンクリート建築は、「適切な手入れによって100年以上耐久する」とされています。
実際、欧米では築100年以上の現役住宅も珍しくありません。

参照:国交省 RC造(コンクリート)の寿命に係る既往の研究例 http://www.mlit.go.jp/common/001014514.pdf

RC造(コンクリート)の寿命に係る既往の研究例
参照:国交省 「RC造(コンクリート)の寿命に係る既往の研究例

しかし、いくら丈夫なマンションといえども、紫外線や風雨によるダメージが蓄積されると、チョーキング(外壁表面が白っぽい粉を吹く)・シーリング切れ・防水シートの膨張といった劣化が目立つように……。そうなると、雨水の浸入や鉄筋の腐食を招き、やがて住めるような状態ではなくなってしまいます。

快適な住環境を保全するためには、外壁塗装や防水処理といった定期的なメンテナンスが不可欠です。

そのため国土交通省は、マンションの新築分譲時には、30年後までの長期修繕計画を作成するよう指導しています(国交省 長期修繕計画策定ガイドライン)。

この計画は5年ごとに見直しを行い、既存マンションも25年後までの計画を立てることが推奨されており、「大規模修繕は12年に一度」と修繕周期の目安も示されています。

修繕周期は12年に一度

大規模修繕とはマンションの補修工事のうち、足場が必要な大掛かりな工事をまとめておこなう場合のこと。

こちらの表は前述の国交省ガイドラインをもとに、建物や住宅設備の修繕が必要な時期をまとめたものです。

外壁や屋上・バルコニーの防水処理といった足場が必要な工事は、ちょうど12年が修繕周期となっています。
(ただし、配管の種類によって多少周期が異なる場合があります)

修繕箇所 工事内容 修繕周期
屋根 屋上防水の修繕 12年
防水の撤去・新設 24年
外壁 塗り替え 12年
コンクリート補修 12年
タイル補修 12年
塗装の撤去・再塗装 36年
バルコニー 鉄部の塗り替え 4~6年
床防水の修繕 12年
給排水配管 更生 15年
交換 30年
給排水ポンプ 補修 8年
交換 16年
エレベーター 補修 15年
交換 30年
機械式駐車場 補修 5年
交換 20年

1回目の大規模修繕(新12年目)

紫外線や雨・風・汚れによって傷んだ外壁塗装、外壁タイルの浮き・ひび割れ補修、屋上・バルコニーの防水、接合部のシーリング補修、電気配線系(インターネット・アンテナなど)といった工事を行います。いずれも雨水の浸入を防ぐためと、マンションの美観を保つために非常に重要な工事です。

2回目の大規模修繕(築24年目)

1回目の内容のほか、貯水槽やエレベーター・給水/排水管・ガス管といった設備の交換が検討されます。

とくに給水/排水管は、日本の水が軟水であるため錆びがつきやすく、経年とともに漏水のリスクが高くなります。

近年は、耐食性にすぐれたステンレス管を採用するマンションが増え、以前に比べて交換サイクルも長くなってきました。

3回目の大規模修繕(築36年目)

三回目の大規模修繕は、玄関ドアや窓ガラス・サッシといった各住戸の建具交換が検討されます。(住戸の開口部は共用部分ですので、住民が各々リフォームを行うのではなく、マンション全体で修繕を行います)

一回目・二回目と比べて多額の費用が必要となるため、資金の確保が課題となります。

工事に必要な費用と期間

修繕資金は、毎月の修繕積立金によって賄われます。
したがって積立金額は長期修繕計画に基づいて、必要十分な金額設定としなくてはいけません。
新築分譲時の金額は、デベロッパーによってあらかじめ決められていますが、入居後は住民自身、つまり管理組合による再検討が必要です。

というのも、多くの新築マンションは購入のハードルを下げるため、修繕積立金を可能な限り安く設定している場合が多いのです。
中には大規模修繕の資金が足りなくなり、住民から一時金を徴収したり、金融機関から借入をするケースも見られます。

また二回目・三回目の大規模修繕は、一回目よりも修繕箇所が多くなります。したがって、費用もより高額なものに……。
そのときに備えて、築浅のうちから計画的に積立をしておきたいものです。

費用の目安

一回目の大規模修繕工事にかかる費用は、一戸あたりおおよそ100万円。二回目は120万円が目安です。
大規模修繕の周期は12年に一度ですので、一ヶ月あたり1万円程度の積立が必要ということになります。

さらに、台風や地震といった予期せぬ災害への対応、給排水や電気系統のトラブルへの備えも含めると、「1㎡あたり200円程度が必要」という見解を国土交通省が示しています(国交省 長期修繕計画策定ガイドライン)。

たとえば、専有面積65㎡の住戸にお住まいの方であれば、月額13,000円程度が相場ということになります。

※ただし、総戸数が多いマンションは資材の大量仕入れによって単価を抑制できます。あるいはフィットネスやプール等の共用施設が併設されているマンションは、その分修繕費用がかかる――といった事情もあります。あくまで参考値としてお考えください。

階数/床面積 月額/㎡
15階未満 5,000㎡未満 218円
5,000~10,000㎡ 202円
10,000㎡以上 178円
20階以上 206円

とくに中古マンションの購入を検討中の方は、築年数と総戸数から逆算して、「十分なお金が積み立てられているか」をチェックしましょう。

中には修繕積立金が払えないからといって、支払いを滞納しているケースもまれにあります。積立金の残高はひかリノベ担当コーディネーターにご質問いただければお調べできますので、遠慮なくお申し付けください。

また毎月の管理費・修繕積立金の金額は、物件情報に記載されています。

期間の目安

工事に必要な期間は、建物の大きさと工事の内容によって変わります。

一回目の大規模修繕工事であれば、外壁塗装・屋上やバルコニーの防水処理・接合部のシーリングといった内容で、遅くても1フロア1ヶ月が目安です。

さらに着工までのコンサルティング会社の選定、建物診断と設計、施工会社の選定といった計画には1~2年を要します。

START 大規模修繕委員会設立
 
3ヶ月~ コンサルティング会社の選定
 
6ヶ月~ 建物診断・設計
 
3ヶ月~ 施工会社の選定
 
GOAL 着工

計画は住民自身が主体となって進めるのが基本です。
まずは住民の代表となる委員(修繕委員会)を決め、修繕工事のプランニングや監理を行います。また、それらを外部業者に委託するケースもあります。

多くのマンションは、エレベーターやオートロック等の設備の保守点検立会や、管理員による巡回・受付業務、共用部分の破損・汚損の確認、運営上の会計処理etc……日常管理業務を管理会社に委託しています。

そのため、従来は大規模修繕も管理会社におまかせ(責任施工方式)というマンションが非常に多かったのですが、工事内容や費用の妥当性に疑問が残るケースもあり、近年は設計や監理を、外部の会社へ委託する(設計監理方式)というケースが多いです。

また最近は、コンサル会社と施工会社の談合を防ぐため、「塗装工事はA社、防水工事はB社」と各工程の施工会社も自分たちで選定するマンションが増えてきています。(CM方式・RM方式)

工事中の生活への影響

大規模修繕中は、ベランダやバルコニーで洗濯物を干したり、植物やウッドデッキ・物置・物干し等を置くことができません。窓の網戸も外して室内へ置くことに……。

エアコン室外機やBS・CSアンテナも、一時的に移動の必要があり(多くの場合、施工業者が必要に応じて移動しますが、移動中はエアコンの使用、特定チャンネルの受信ができません)、足場が組まれ、シートの設置により外壁や窓が覆われることで、一時的に採光も遮られます。

作業中はたえず作業員が出入りするので、プライバシーを守るために「カーテンを閉たままにしておこう」という方もいます。また、施工中に騒音が響く場合も……。

その間ずっと我慢が必要なこともありますし(ベランダの私物撤去は工事期間中ずっと続くケースが多いです)「◯月△日は騒音が発生する工事を行います」というように、一時的に生活に制限が生じることもあります。

とくに騒音・臭い・振動などが起こりうる工事の際は、事前にお知らせが入りますので、工事前・中はこまめにポストを確認しましょう。

大規模修繕は、マンションの住環境を「快適」「安全」に保つために欠かせないものです。また、ご自身のマンションの資産価値を守ることにもつながります。

とくに中古マンション購入をお考えの方は、購入後まもなく修繕に入る可能性も十分考えられます。

そのときになって、積立金が足りないからと多額の一時金を徴収されたり、実施すべき工事を怠ったために建物の劣化・老朽化がどんどん進んでいってしまうようでは困りもの。特に近年劣化が進んだマンションが増えており、このまま増加すると社会問題に発展するかもしれません。

「マンションは管理を買え」と俗に言われるとおり、積立金の残高や滞納はないか?長期修繕計画は25年後まで作られているか?いつどんな工事を実施したか、修繕記録は保存されているか――といった管理状態をよく確認して購入しましょう。

大規模修繕のトラブルと注意点

大規模修繕を無事に終えるまでには、マンション住民同士の協力が欠かせません。
また、大規模修繕で起こりうる問題や解決策を知っておくことで、不要なトラブルを回避することにもつながります。

まず、大規模修繕を行うにあたって「修繕委員会」を立ち上げる必要があります。
委員会のメンバーは、住民の中から選ぶのが一般的です。

修繕委員会の役割は、管理会社や外部委託業者との窓口になる・住人説明会を開催する・住民の要望やクレームの窓口となる、といった内容がメインとなります。

委員会に選ばれなかったから、大規模修繕には全く関わらなくて良い……という訳では、決してありません。

工事内容などについて、後々のトラブルを回避するためにも、不安点や疑問点はその都度解決していくことが重要です。住民説明会など定期的な話し合いには、委員会のメンバーでなくとも、できるかぎり参加するようにしましょう

委員会側の立場になった場合も、無駄な修繕費や工事期間がかからないよう尽力する必要があります。工事期間が長くなればなるほど、住民の不満やストレスは溜まっていくため、トラブルも発生しやすくなります。

住民説明会を開くときにも、戸数つまり住民が多ければ多いほど、意見や考え方は分かれるもの……ということを理解しておきましょう。

また住民同士の協力があっても、施工会社の都合で大規模修繕の期間が延長されたり、予定が変更になることもあります。

その場合、修繕委員会は「なぜ工事が遅れるのか」という理由を、住民が納得する形で説明するようにします。

マンション購入は管理状態を確認しよう

中古マンションを購入する場合、誰しも築年数や部屋の状態、価格などに気を取られがちになります。

しかし、いくら良い部屋であっても、マンションの管理状態が悪く修繕積立金が不十分だったり、住民同士のコミュニケーションが取れていないマンションだった場合、結果的に入居してから余計な費用や苦労がかかることになってしまいます。

大規模修繕期間中は、月に一回ほどのペースで説明会などが行われるため、これまでより住民同士で顔を合わせる機会が多くなります。クレームや意見が対立することもあるかもしれません。

大規模修繕は自身のマンション、つまり資産を守るための大切な工事です。
ぜひ当事者として意識を持って、住民説明会などに参加するのが望ましい

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記事監修

大宮 良明(一級建築士、既存住宅状況調査技術者)

一級建築士、既存住宅状況調査技術者の有資格者。木造建築の構造計算をはじめ、安全性に配慮した設計を得意としている。「住まいのデザインは見た目のカッコよさはもちろんですが、それ以上に暮らしやすさや安全性が大切だと考えています。長い目で見て『こうして良かった』と思える家を、いっしょにつくっていきましょう」

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